女主人公と男直斗で小話その8です。
クールだと思っていた人が、子供っぽい事をしていると可愛いよね。
という、話。
のはずが、違う方向に向かいました(笑)
読んでくださる方は「つづきはこちら」からどうぞ。
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しんしんと雪が降る。
手袋をしているのにじんじんと痛む手にはあと息を吹きかけた。
けれど、新雪に己の足跡をつけるのが楽しくて意味もなく蛇行して歩いた。
気が済むまで歩き回って、今まで自分が歩いてきた道を振り返って伊月は笑った。
今まで住んでいた所には雪はめったに降らなかった。
降っても次の日には解けてしまっている事がほとんどで、こんな風に雪に足跡をつけることなんて出来なかったのだ。
だからだろう。
無性に楽しくて仕方がないのは。
傘を下ろし、顔を上げて空を見上げる。
白く重い雲から降る雪は美しい。
ふいに現れる雪の影が降り注ぐさまを見るのは飽きなかった。
できるならこのまましばらく見ていたいところだったが。
「くしゅんっ」
さすがに体が冷えてきたのかくしゃみを一つ零す。
コートを着込んでいるとはいえぶるりと背筋が震えた。
「・・・まったく、何をしているんですか」
この呆れた声には聞き覚えがある。
伊月はみっともないところを見られたと少し恥ずかしい思いをしながら振り向く。
同じタイミングで傘を差し出されて思いのほか彼が近くにいた事を知った。
「直斗」
「風邪、ひきますよ」
「大丈夫。丈夫なのがとりえだし」
心配性の彼に笑みを返すと、直斗が伊月の髪や肩に降り積もった雪を払う。
「丈夫な人でも絶対に風邪をひかない訳ではないでしょう? あんまり過信をしないでください」
苦笑を零す彼に「ごめん」と素直に謝った。
そうして下ろしていた傘を再び差す。
「何をしていたんですか?」
「足跡、つけてた」
「足跡?」
「私が前に住んでいた所には雪がほとんど降らなかったら珍しくて」
「なるほど。この足跡、全部先輩がつけたんですね」
「ふふ」
少しやりすぎたかな、と今更反省をするものの、すぐに降り注ぐ雪に隠れてしまうだろうから許して欲しいと誰にともなく謝った。
「雪、好きなんですか?」
「え?」
「じっと見ていたでしょう?」
「ああ・・・。そうだね、そうなのかも」
無垢な白は心を清めてくれそうな気がした。
降り注ぐ雪の中はなぜか心地よくていつまでもいつまでもたたずんでいたいと思うほどに心を奪われていた。
なぜそんな事を思うのかは分からなかったけれど、直斗の言うとおり『好き』なのは間違いないのだろう。
「・・・む、無邪気なあなたも、可愛かった・・・です」
再び雪を眺め始めた伊月の耳にふいに届いた言葉。
思っても見なかった言葉に彼を見れば、直斗は顔を伏せてしまっていたが耳が少し赤くなっているのが見えて笑ってしまった伊月なのだった。
「いつから見ていたの?」
「・・・・・・・・・・」
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お久しぶりの小話です。
雪が降っていたので雪のお話。
雪が降って少し心が浮き足立っていたのは私です(笑)
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