性転換ネタ小話その7。
その6の男直斗視点です。
読んでやるぜ! の方は『つづきはこちら』からどうぞ^^
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雨が降り出した時、ちょうど四六商店に立ち寄っていた時だった。
用件は済んでいたので、ついでに傘も購入して外に出る。
すでに日が暮れて、時刻はまもなく夕食時。
あまり家事をしない僕は出来あいの夕食を買って帰ろうとジュネスにも寄ろうと足を向けた。
その途中、民家の軒先に見慣れたというには語弊があるが、以前から『いろいろな意味』で気になっていた人物がびしょ濡れのまま雨宿りをしているのを見つけた。
心臓がどくりと動く。
相変わらずこの不整脈のように心臓が反応する理由は謎だ。
謎を謎のままにしておくのは性に合わない。
だから、彼女を見つけると去り難くなるのだ。
きっとそうだ。
誰もいないのに一人頷いてしまってバカみたいだと恥ずかしくなる。
一応、周囲を見回して人がいないか確認したが、彼女以外、周辺には誰もいなかった。
彼女を、神凪伊月を今一度見る。
色素の薄い長い髪も夏服の制服も濡れそぼり、自身を抱きしめるその姿は寒そうで僕は眉を寄せた。
もともと色白の肌が青白く見え、唇も・・・以前見たときは桜色していたのに今や色をなくしている。
困ったように眉尻を下げる姿は見たことがなくて、その心細げな雰囲気に息をのんだ。
もともと・・・その・・・綺麗な人だとは思っていたが、こうしてみる彼女はまた違う美しさだった。
儚くて・・・今にも消えてしまいそうな、そんな美しさ。
僕は自然と彼女に足を向けた。
どうやって話しかけようとか、そんな事は考えてもいなかった。
ただ、何かをしたかった。彼女のために。
近づけば近づくほど、彼女が震えているのが分かった。
寒いのだろう。
それはそうだ。あんなに濡れて、梅雨時期に入ったこの季節の気候では寒いはずだ。
彼女の目の前までたどり着く。
けれど真正面から見ることができなくて少しだけ顔を伏せた。
「きみ・・・」
声を聴いた瞬間、心臓がさっきの比じゃないくらい騒がしくなって僕は慌てて傘を彼女に突き出した。
「え?」
戸惑う声に僕は搾り出すように「どうぞ」と言う。
けれど彼女は傘を受け取ろうとはしなかった。
それどころか僕を心配してくれたのだろう。
「あなたが濡れてしまう」
そう言って眉を寄せた。
そうれはそうだが、僕は僕自身が濡れるよりもあなたがカゼを引かないか・・・心配、だ。
けれど、それを言う事ができず、とにかく納得してくれそうな言葉を探した。
「・・・僕には帽子がありますから大丈夫です」
しかし出てきた言葉は頼りないもので、やはり彼女も「帽子って・・・」と呆れているようだった。
「このままカゼをひきたいんですか」
僕は恥ずかしくなって、とにかく彼女が傘を受け取ってくれるようにと強めに言う。
そうしてようやく納得してくれたのか、傘を受け取ってくれた。
「ありがとう」
笑みを浮かべながらお礼を言われて僕は頬が熱くなる。
慌てて顔を伏せて僕は踵を返した。
「そ、それじゃ・・・」
降りしきる雨の中に飛び出す。
とにかく彼女からすぐに離れたかった。
ばくばくと心臓が早くなる。
それは全力疾走をしているからだと自分に言い訳をした。
なぜそんな言い訳をする必要があるのかと疑問を持ったが、その理由を僕は知りたくなくて無理やり目を瞑ってやり過ごしたのだった。
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性転換小話その6の直斗視線バージョン。
こっちは悶々としております(笑)
相変わらず短いですが少しでも楽しんでいただけたら幸いです^^
それでは、また次のお話で!
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